最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)3125号 判決 1958年10月24日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について
所論は、被告人のする偽証教唆を処罰することは、供述の強要を禁止する憲法三八条一項の精神に違反し、これをしないことを期待できないのに処罰するのは刑法六一条一項(教唆)、一六九条(偽証)の解釈を誤り、罪とならない行為を有罪とした違法があるというのである。
しかし、憲法三八条一項の法意は、何人も自己が刑事上の責任を問われる虞ある事項について供述を強要されないことを保障したものと解すべきであって(昭和二七年(あ)八三八号同三二年二月二〇日大法廷判決刑集一一巻二号八〇二頁)、被告人自身に黙秘権があるからといって、他人に虚偽の陳述をするよう教唆するときは偽証教唆罪の成立を免れないこと当裁判所屡次の判例である(昭和二六年(あ)二六二号同二七年二月一四日第一小法廷決定判例集不登載、昭和二七年(あ)一九七六号同二八年一〇月一九日第二小法廷決定刑集七巻一〇号一九四五頁、昭和二九年(あ)三九六五号同三二年四月三〇日第三小法廷決定、刑集一一巻四号一五〇二頁)。されば所論は採るを得ない。
所論第二点は、採証法則違反の主張であるが、要するに一、二審ともに証人として尋問した偽証者原田実次の証言が信用できないということに帰する。従って事実誤認の主張であって、上告適法の理由にならない。
所論第三点は推測事項を証拠にしたというのであるが、刑訴一五六条は、事実により推測した事項が証拠になる旨規定しており、本件は前記原田実次の証言「被告人が裁判所で調べられることを予想していったのです」(七四丁裏)が問題にされているがこれは「すりかえて」なる事実に基く推測というよりは供述を依頼した事項の解釈に過ぎない。従って単なる想像というのは当らない。所論は採るを得ない。
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)